ベジタリアンにも
「せっかく日本に来てもらっているのだから、喜んでもらわなくては」と話すのは、大阪市福島区の野田阪神駅にほど近い場所に店を構える日本料理店「祭(まつり)」の創業者、佐野嘉紀氏だ。
同店は大阪市を訪れるイスラム教徒に圧倒的な人気を誇る。平成28年にオープンしたばかりだが、マレーシアやシンガポール、インドネシアなど東南アジアからの旅行者を中心に、会員制交流サイト(SNS)を通じて噂が広まり、来店者数は年間2万人を超える。
店内に置かれたゲストブックには「また来たい」、「おいしかった」などと、感謝の言葉が英語でびっしりと書き込まれている。ほとんどが東南アジアからの観光客が書いたものだが、ベジタリアンという米国人観光客による書き込みも。
「祭」ではハラル(イスラム教の戒律)にのっとった食材、調理方法でつくった「ハラル食」を提供。ベジタリアン向けの野菜ラーメン、カレーラーメン、わさびラーメン(いずれも千円)や神戸牛鉄板焼き(5千円)などが人気だ。ラーメンは豚骨などが使えないため、コクやうまみが少なくなるものの、ハラル対応のみりん風調味料などを使って味を工夫することで、通常のラーメンと比べても遜色ないおいしさに仕上げた。昼時にはラーメン目当ての日本人サラリーマンらで満席となることもある。
困っている姿みて
佐野氏がハラル食を提供する「祭」をオープンしようと考えたのは、大阪を訪れたイスラム教徒の人たちが食事に困っているのを知ったのがきっかけだった。
宗教上の理由で多くの食材を食べられないイスラム教徒の人たちは、日本に来ても東南アジア系のレストランに行ったり、ホテルに持ち込んだカップラーメンを食べたりして観光していた。なかには「“ざんげ”して日本食を食べている観光客もいた」(佐野氏)という。
一方、大阪観光局もそうした状況を問題視。イスラム教徒の人たちでも安心して食べられるレストランやハラル食の情報を集めたパンフレットを作る取り組みなどを始め、今年1月にはベジタリアン向けのパンフレットも用意した。現在も情報の更新を続けている。
食事が誘客の鍵に
大阪観光局は東アジアに次ぐ有望な観光客の誘致先として、インドネシアやマレーシアなどの東南アジアやインドに注目している。
ただ、それらの国々は日本と食習慣が大きく異なっている。欧米からの訪日客も「1割はベジタリアン」(大阪観光局)といい、対応が急務となっている。さらに、一口にベジタリアンといっても、その“厳格さ”は多様で、パンフレットには、それらのカテゴリーを細かく分けて記載した。
増えつつあるとはいえ、イスラム教徒の人たち向けにハラル食を提供している店舗は少ない。需要が見通せず、収益性が不透明なためだ。多くの店舗は「店主が片手間でやっているのが実態」(佐野氏)という。
大阪では今後、東南アジアを含めた訪日客の多様化が見込まれている。大阪観光局はイスラム教徒やベジタリアンの人たち向けの食事の充実が誘客の鍵になるとみており、ハラル食に対応したレストランなどの情報発信を強化する考えだ。