この警察総長は「我々は通常、個別の事件において人種には言及しないが、トランプ氏の発言を受けて、土地をめぐる殺人事件の人種を公表することにした」と語りました。
トランプ氏は今月21日に行われた南アのラマポーザ大統領との会談で、南アの白人が「ジェノサイドを受けている」と主張し、その「証拠」とされる写真や動画を自ら提示しました。しかし、その中にはコンゴで撮影された無関係の動画も含まれていたことが分かっています。
南アフリカでは1913年に「原住民土地法」が制定され、国土のおよそ8割が白人のための土地とされ、黒人による土地購入は禁止されました。この法律は後のアパルトヘイト体制の基礎となったとされています。
同法は1991年に廃止され、94年にアパルトヘイト体制が終焉すると同時に、白人所有の土地を黒人に配分する政策もとられました。しかし、実際には土地分配は進まず、現在も多くの土地は白人が所有しているとされています。
2018年に就任した現在のラマポーザ大統領は、憲法を改正して白人所有の土地を政府が補償なしで収用できるようにする方針を発表。そして今年1月、その内容を具現化した「土地収用法」が施行されました。
この法律に対して、南ア国内の右派および白人市民などからは批判の声が上がり、トランプ氏はそれに乗じたという訳です。専門家はトランプ氏の主張について「人道的懸念というよりも、南アや世界各国の白人層・右派層への訴求を狙っている。トランプ氏のような嘘の主張は、社会的信頼を壊し、人種間の分断をもたらす」と警鐘を鳴らしています。
トランプ氏については、かねてから「白人優越思想」を抱いているとの指摘がされており、氏のキャッチフレーズである「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン(アメリカを再び偉大に)」の真意も、白人優位のアメリカを取り戻すという意味にすぎないという声もあります。
別の観点として、南アフリカがイスラエルをガザでのジェノサイドの罪で国際刑事裁判所に訴えた最初の国ということがあります。親イスラエルの姿勢をとるトランプ氏は、「白人ジェノサイド」問題を持ち出して南アに圧力をかけ、その対イスラエル姿勢を変更させようとしているとの見方もあります。
いずれにしても、トランプ氏が持ち出した「白人ジェノサイド」は、氏が白人の置かれた状況を人道的に懸念しているというものではなく、政治的・人種的動機にもとづくものであると言えます。そして、それがフェイクの情報によって固められていることを考えれば、そのような言説が広まることは、やがて南アが経験してきたアパルトヘイトという歴史的事実そのものの忘却・否定につながりかねず、危険な動きであると言わざるを得ません。
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