以下は、CNNのクラリッサ・ワード記者によるサイドナヤ刑務所の取材報道に関してイランのジャーメ・ジャム紙が掲載した分析記事です。
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CNNのクラリッサ・ワード記者がシリアのサイドナヤ刑務所に取材クルーとともに入ったとする映像は、カメラの前で監房を一部屋ずつ開け、囚人を解放するというあからさまなやらせで、メディアリテラシーの専門家からも疑義の声が上がった。
しかしこの映像は、イランを含む各国の報道機関の間で広く拡散した。CNNがこうしたやらせ映像を放送するのは、今回が初めてではない。数カ月前にも、ガザでイスラエル軍に空爆された病院内の壁にハマスのメンバーの名前が書かれたカレンダーが貼られていたという報道があったが、これもCNN幹部が後にやらせであったことを認めている。
やらせの手口
ワード記者には「前科」がある。イスラエルとガザの境界からリポートした映像では、画面の外から「危険なように周りを見渡せ」「恐怖感を出せ」といったスタッフと思われる人物の声が入っていた。CNNはこれについて「他の音声が混ざったもの」と弁明したが、多くのファクトチェックサイトはこの報道をやらせとみなしている。
過熱するフェイク競争
シリアをめぐる情報の氾濫は、真実を指摘するのに勇気が必要になるほどにまでなっている。サイドナヤ刑務所から囚人が解放される様子とされる映像をフェイクと指摘しようものなら、たちまち「アサド政権による犯罪の共犯者」と名指しされてしまう。しかし、実際にこの刑務所について出回っている画像や映像の多くがフェイクである。その一例が、独房の中で壁に固定された足輪をつながれた囚人の画像があるが、これはベトナムにある戦争博物館の展示物であることが判明している。
フェイクを指摘するSNSユーザー
クラリッサ・ワード記者のような大手メディアの記者によるやらせに注意しなければならないのはそうだが、その一方でそうした大手メディアに代わってSNS上のインフルエンサーたちが情報の発信元になっている現実もある。実際、大手メディアによって報じられたフェイクの多くがSNSが発信元となっている。
情報の伝え手としての旧来のメディアへの信頼が低下していることで、その役割が望ましくない形でインフルエンサーたちに任されようとしている。SNSリテラシーの専門家は大量のフェイクに対処できるほど多くない。特にAIが手軽に利用できるようになった現在ではなおさらだ。実際、件のサイドナヤ刑務所のフェイク動画は900万回の視聴数を突破したが、それを指摘した情報は10万回ほどしか閲覧されていない。