ユダヤ人ロビーは様々な活動目標を有していますが、彼らが最も注力しているのが米・イスラエル関係です。複数のユダヤ人団体が米政府によるイスラエル支持にむけてはたらきかけていますが、その中でも最も強力な団体は「アメリカ・イスラエル公共問題委員会」(AIPAC)です。
AIPACは米国内のあらゆるユダヤ関連団体を統率・調整する役割を担っており、その最も重要な役割は米政府の政策をイスラエルの利益に沿うものにすることです。その活動は、議会議員や政府高官へのはたらきかけ、イスラエルの利益を確保する立法運動などに表れています。今日、米・イスラエル関係は特別な二国関係として知られています。その関係を特別なものにしているのが、他ならぬAIPACのようなユダヤ人ロビー団体です。これらの団体は、米・イスラエルにとっての共通の脅威を常に説き、そのために両者の戦略的協力が欠かせないと訴えています。
AIPACは様々な関連団体を設立し、宗教と民族を結び付けることでアメリカの意思決定機関に浸透し、その外交政策を誘導することを目的としています。その手段としては、潤沢な資金力と宣伝力を駆使して、自らの方針に沿う議会選挙立候補者を支援することが挙げられます。
特に下院に対するAIPACの影響力は絶大で、どんな議論も忖度なく行われる米下院で、イスラエルに関する問題になると途端に議論が途絶えます。これにより、イスラエルはあらゆる批判から免れているのです。
AIPACの活動が成功しているのは、自らの利益に沿う政治家にアメを与え、そうでない者にはムチを振るっているからです。
AIPACはさらに、大統領選挙におけるユダヤ人票を通じて米政府にも浸透しています。ユダヤ人有権者は数だけでみればごくわずかですが、その豊富な資金を民主・共和の両党へ寄付しています。また、ユダヤ人有権者の投票率は高く、カリフォルニア、フロリダ、イリノイ、ニューヨーク、ペンシルバニアといった大票田に集中しています。
AIPACは、在米シオニストがアメリカの対イスラエル・対西アジア政策に影響を及ぼす手段となっています。これに関して、『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』の著者であるジョン・ミアシャイマーとスティーヴン・ウォルトの両氏は、現在のアメリカの異常なまでのイスラエル支持は戦略的・倫理的観点からは説明できず、ユダヤ人ロビーの浸透によるものとしか説明できないとしています。
両氏は、ユダヤ人ロビーはアメリカをイラク戦争に引きずり込み、イランやシリアとの関係正常化を破綻させた張本人だとしています。そして、AIPACを筆頭とするユダヤ人ロビーを、アメリカの西アジアにおける外交政策を決定づける勢力と位置付けています。
AIPACの影響力は、米当局者が本意に反して自らの政策をイスラエル寄りにせざるをえなくなるほどです。その例として、パレスチナ国家樹立を公言した歴代米大統領がAIPACからの圧力にさらされたことが挙げられます。
イラクを占領した当時のブッシュ政権は、イスラエル・パレスチナ問題の解決とパレスチナ国家樹立を目指しましたが、AIPACの猛烈な反対に遭い、断念を余儀なくされました。
その後のオバマ大統領もAIPACで演説したことがきっかけで、イスラム諸国の国民から不評を買い、イスラエル・ロビーからの支持を得ただけとなりました。
近年では、トランプ前大統領ほどイスラエルのために尽くした人物はいません。「2国共存」からイスラエルだけの「1国共存」への転換、米国大使館のエルサレムへの移転、イラン核合意からの離脱と制裁行使、そして2020年のイラン革命防衛隊司令官ソレイマーニー氏の暗殺など、すべてイスラエルのネタニヤフ首相の意向に沿うものであり、それらはAIPACを通じてトランプ氏に伝えらえていたのです。