訪日販促と地方創生の交差点

まずは「知る」ことから 急増する訪日ムスリム プロモーションから考える対応策

  • ニュースコード : 846026
  • 出典 : sendenkaigi
Brief

訪日外国人の急増に伴い、ムスリム旅行者も増加しつつある現在。ふだんはなかなか馴染みがなく、「ハラール」の理解も必要なムスリム旅行者の迎え方については難儀する店舗も少なくない。具体的にどんな対応策が必要なのか。

【その1】 拡大する訪日ムスリム客市場

訪日外国客のなかでも、ムスリム観光客の市場は、年々着実に伸びてきています。2016年度の外国人観光客の訪日外国人数は過去最高の2403万9000人でした。

JNTOの主要20市場のデータに、外務省の国別人口におけるムスリム率を単純に掛けて試算すると、全世界からおよそ150万人のムスリム観光客が日本に来日していると推測できます。訪日外国客全体の数字から見ればまだまだ小さな割合ですが、今後伸びるポテンシャルのある市場なのです。2015年度は100万人だったので、前年比50%増と確実に伸びてきています。

全世界のムスリム人口は2020年では19億人になると推計されており、そのうちの10億人がASEAN圏で暮らす人々だとされています。この数字を見ても、ムスリムの訪日客数の成長の余地は非常に大きいと言えると思います。

そんな訪日ムスリム観光客で一番注目される国が、インドネシアです。世界で最も大きく、日本から最も近いイスラム教国になります。人口の9割近い約2億2000万人がイスラム教徒。訪日客数を見ると、2016年1月~12月のインドネシアからの訪日客数は、前年比32.1%増の27万1000人。伸び率では、主要20カ国で最も高い数値となりました。

2017年1月~4月でも前年同期比45.5%増の12万1700人。主要20カ国中の伸び率トップを維持しています。ただ、いま来日しているインドネシアからの観光客の80%は、実は非ムスリムなのです。つまり、ムスリム対応をすれば、2億人の伸びしろがあるということになります。

ここでもう一つ重要なのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックです。「オリンピックとムスリム」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、全世界で人口が増えていることに伴い、スポーツ分野でもムスリム勢が躍進しています。

オリンピックにおけるムスリム・アスリートの人数はというと、2012年のロンドン・オリンピックでは、全アスリート約1万500人に対し、ムスリムは4000人で38%でした。2016年のリオ・オリンピックでは、全アスリート約1万1000人に対して6000人の54.5%と、2000人も増えています。

五輪競技には、アフリカ系の身体能力の高い選手が多く出場します。北アフリカや西アフリカはイスラム教国が多く、自然とムスリムのアスリートが増えます。また、欧州諸国が移民を受け入れているのも、そうした傾向の一因かもしれません。いずれにしても、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催時には、世界中からムスリム・アスリートが来ます。

競技側もムスリムの受け入れ態勢の準備を進めています。顕著なのは、ロンドン五輪以降、ムスリム女性がスカーフなどで頭髪を隠す「ヒジャブ」の着用が、サッカーなどで認められたこと。ムスリム・アスリート市場をにらみ、ナイキがことし3月にムスリム女性のためのスポーツウエア版ヒジャブ「Pro Hijab(プロ・ヒジャブ)」を発表するといった動きも出てきています。

では、東京オリンピック・パラリンピックはどうなるでしょうか。予測では、全アスリート約1万2000人に対し、8000人~9000人がムスリムになるとされています。もちろん選手本人だけでなく、同伴する家族やスタッフもムスリムであることが多いので、全体ではさらに大きな規模になると思われます。なのでムスリム対応は必須と言えるでしょう。訪日外国人客ばかりでなく、東京五輪だけでも確実にムスリム対応が求められる可能性が非常に高いのです。残り3年弱で間に合うでしょうか。

【その2】 最低限押さえておくべき知識

では、より実務的な例を見ていきましょう。まず認識していただきたいのは、イスラム教徒が日本に来て困ることです。その最たるものが「食事」です。その次に「礼拝」があります。

ここでは、簡単にイスラム教で食べてはいけないものを説明します。

(1)豚肉を使った料理や、豚由来の成分を使用したもの。

(2)アルコール飲酒はもちろん、調味料としての日本酒、ワイン、みりんなど。

(3)豚肉以外の肉である牛、鶏、羊。これらの肉も、イスラムの教義に則って、と畜されていないものは食べられません。

なかでも特に厄介なのは、約180品目のいろいろな添加物や原料に使われている豚由来の食品原料です。たとえば「ラード」は、コーヒークリームやアイスクリーム、乳化剤としてマーガリンやビスケット、スープなどに使われています。「肉」は、ソーセージやハム、ベーコンに使われています。「皮」はゼラチン、アイスクリーム、マシュマロ、ヨーグルト、ゼリー、ソフトキャンディに使われています。

さらに乳化剤は、ほとんどのお菓子に使われています。最近では、植物由来や大豆由来の乳化剤などの表記もあますが、その多くが「乳化剤」としか表記していないため、これではムスリムは食べていいのかどうか、判断できません。

こうしたことも踏まえ、ムスリム対応は、どこからはじめたらいいのでしょうか。まずは、観光庁が定める「英語での情報開示」です。そして「ノンポーク、ノンアルコール表記」「ハラールミート、ハラール調味料を使用する」といった手段もあります。店鋪や商品で「調理場、調理器具、食器、食事場所もできる限り対応する」といった情報を開示することが、ムスリム対応の最初の一歩と言えます。

「食事」について国内のムスリム対応はどれだけ進んでいるかというと、2016年のムスリム観光客約150万人に対し、ムスリムに対応したレストランの数は、私たちが運営する日本最大のムスリム向けレストラン検索サイト『ハラールグルメ・ジャパン』に掲載されているだけで770店舗。そのうちハラール認証取得レストランは150店舗(2017年7月12日現在)というのが現状です。この中には、インド料理など各国料理も含みます。

つまり、まったく足りていない状況なのです。また、ハラール認証取得レストランは、札幌、東京、京都、大阪といった観光地に集中しており、地方となるとゼロという県もあります。

ムスリムが現在日本で最も安心して訪問できる"ムスリム・ウェルカムシティー"が、東京都の台東区です。区がレストランのハラール認証に補助金を出しており、2017年7月現在で22店舗が認証を取得しています。

台東区のなかでもとくに浅草がムスリム対応に成功しているのですが、それはハラール認証取得はもちろん、ムスリム観光客が安心してお茶や食事ができ、お土産を買うことができるなど、1日過ごせる面づくりができたからだと思います。複数のお店が協力して相互送客したり、仲間で受け入れることが、成功の秘訣と考えられます。

【その3】 ムスリム受け入れのポイント

次に、その台東区のムスリム観光客の集客で成功したお店の事例を紹介します。ムスリム・訪日外国客におけるプロモーションのポイントは、「コミュニケーション」「写真」「動画」「発信」の4つです。

あいさつからすべてが始まる

まずは、ムスリムのあいさつを覚えること。「こんにちは」は、「Assalamu alaikum:アサラーム・アライクン」です。意味は「あなたに平安あれ」。世界中のイスラム教徒とあいさつでき、この一言で一気に仲良くなれます。

こうした言葉を使うことで、「イスラムのことを理解しようとしている」「勉強している」ととらえてもらえる可能性が高まります。基本的に、各国のあいさつは覚えておくと便利です。

ムスリムは写真好きなケースが多い

ムスリムは写真を撮るのが好きな人が多いようです。特にASEANのムスリムはいわゆる「自撮り」や、写真をソーシャルメディアに投稿することに積極的。気軽にシャッターを切らせてくれるし、一緒に写ろうとも言われます。もちろん食べ物の写真も撮ります。

インドネシアは、ソーシャルメディア利用者が多い国です。Facebookユーザーは7900万人(2016年2月)、Instagramユーザーは1800万人(2016年2月)と、ASEANでもNo.1のユーザー数を誇っているのです。そのためテレビでさえも、ソーシャルメディアを活用しないと数字が取れないほどの影響力があるのです。

日本においてInstagramで最もフォロワーが多いタレントは、渡辺直美さんで690万人ですが、インドネシアではムスリム・タレントのラウディア・シンシア・ベラ(Laudya Cynthia Bella)さんが人気で、フォロワーは1730万人に上ります。このように、日本とインドネシアとのソーシャルメディアの格差は桁違いです。

さて、先ほど台東区はハラール認証が進んでいることを紹介しましたが、「浅草すし賢」は、ソーシャルメディアでの発信に力を注いでいる店鋪です。「Asakusa Sushi-Ken For Muslim Customers」と題したFacebookページや、Instagramアカウントを覗くと、たくさんのムスリム客との記念写真を見ることができます。「FacebookとInstagramを連携させ、できるかぎり写真を撮って投稿する」という方針を敷いています。

ここ2年ほど試行錯誤をくりかえしており、「すし賢」はムスリム客によって売り上げが大幅に伸びているようです。もちろん大前提として、日本人もムスリムも食べられるおいしいハラール寿司を作る技術が大きいということは見逃せません。

さて、「浅草すし賢」から得られるヒントが二つあります。ひとつは、ソーシャルメディアで発信し続けること。来店したムスリムの写真を発信することで、ここに行こうという口コミが広がります。

もうひとつは、写真は「食べているところの写真」がよいということです。これは訪日ムスリムにとって、とても重要なことです。「同胞のムスリムがおいしそうに食べている」「安心して食べられる」「信頼できる」となり、これがどんな「ハラール認証マーク」よりも意味を持ちます。

動画トレンドを生かす

最近のソーシャルメディアは写真だけでは見てくれないので、動画が重要になります。InstagramでもFacebookでも動画のコンバージョンが高くなってきています。動画を投稿する際にポイントとなるのは日本人目線でなく、外国人目線での発信です。

事例としては、私が企画プロデュースし、銀座松屋でのラマダン明けのインドネシア・ムスリム観光客の来店促進のプロモーションビデオがあります。内容は、在日インドネシア学生のモデルと在日インドネシア・アーティストに彼らの目線で松屋を見てもらい、映像として紹介してもらうというものでした。発信するソーシャルメディアは銀座松屋のFacebookページも活用しましたが、メインは協議会が運営するムスリム訪日外国客Facebookページでした。

広告も少額投入するなどしましたが、2週間でリーチは31万、動画の再生は約8万回と、ムスリム観光客がコンスタントに銀座松屋、つな八松屋銀座店へ訪問するという結果を出すことができました。

発信しなければ何もはじまらない

受け皿としてのWebサイトの多言語化は進んできましたが、訪日外国客がふだん暮らす外国の現地に情報をプッシュしてバイラルさせるソーシャルメディアの活用が、まだまだ企業や行政にはできていません。訪日外国客へのプロモーションで一番力を入れなければいけないのが、ここだと言えます。発信のないところにムスリム・訪日外国客観光客が来ることはありません。

つまり、今後の訪日ムスリム観光客を考える上では、ムスリム対応の食事、礼拝、お土産、宿泊などについて、しっかり継続的に発信することが大事なのです。

一般社団法人メイドインジャパン・ハラール支援協議会
理事長
高橋敏也(たかはし・としや)氏

広告、IT業界を経て、メイドインジャパンを世界へメイドインジャパンでおもてなしを目指し、協議会設立。台東区のムスリム対応アドバイザーをはじめ日本全国のムスリム受け入れ対応の支援を行なっている。

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