【関西の議論】 インバウンドに黄色信号も…ムスリムの信頼揺らぐ日本の「ハラル認証」の実態

ムスリム(イスラム教徒)の訪日客が急増するなか、イスラム教の戒律に従ったハラル食を提供する飲食店がこぞって取得を目指した「ハラル認証」の信頼性が揺らいでいる。認証団体が乱立し、統一基準がないまま認証だけがひとり歩きした結果、かえってムスリムの不信感を増長させる事態になっているためだ。このため、飲食業界ではSNS(会員制交流サイト)などで食材や調理方法を公開したり、店頭での説明を徹底したりするなど、認証に頼らないアピールが広がっている。(小松大騎)


揺らぐ認証への信頼

 日本最古のモスク「神戸ムスリムモスク」(神戸市中央区)は、東京のモスク「東京ジャーミイ」と並び日本を訪れるムスリムに人気の観光地で、年間7千人以上が訪れる。一方で、日本食への興味を持ちながら、食事を済ますことなく神戸を離れるムスリムは少なくない。

 モスクに毎週通うムスリムの大学生、ユースフ・ムハンマドさん(25)は「ほとんどの観光客が日本料理に挑戦しようとするが、ハラル認証を信じ切れなかったり、日本語表記しかない食品の成分表に戸惑ったりしている」と明かす。結局はモスク周辺にある日本在住のムスリムが営む食品店で即席麺を購入するか、自国から大量のレトルト食品を持ち込んでホテルで食事するムスリムが依然として多いという。

 日本政府観光局によると、昨年の訪日外国人客は約2870万人。人口の6割がムスリムのマレーシアからは約44万人、9割のインドネシアからは約35万人で、5年前と比べてそれぞれ3倍以上になっている。ムスリムの多い東南アジアの経済成長もあり、東京五輪が開かれる2年後には中国人客を上回るとの予想も出ている。

このムスリム市場を取り込もうと、一時はハラル認証取得を目指す飲食店が多かったが、近年はブレーキがかかっている。

 ハラル認証は、宗教と食品科学の観点から専門家がハラル(アラビア語で「許されたもの」の意味)であることを保証する制度。この制度には「農場から食卓まで」との理念があり、生産から消費までの全ての過程でイスラム教の戒律を順守する必要がある。「豚肉やアルコールを提供しない」といった基本的なことから、「動物を食肉処理するときは首をメッカの方角に向ける」など細かく定められている。

 ただ、日本では許認可や届け出を必要としないため、制度をビジネスに利用しようとする認証団体が少なくない。国内に100程度の認証団体があるとされ、団体ごとに認証基準が異なる。認証取得には数十万~数百万円かかることから、手数料目当てで戒律に沿わない簡素な審査で済ませる悪質な団体もあるという。

ハラル認証って?

 そもそも、ハラル認証が発行されるには、どのような手続きを経るのか。

 認証団体が原材料や製造工程、食材の品質などを審査する委員会を設ける必要がある。委員会はイスラム教や食品科学の知識を有したムスリムで構成されることが多く、飲食店や企業などから申請を受けると、委員が書類審査や監査などを実施した上で認証を発行するかどうか決める。

 ただ、国内では許認可や届け出がなくてもハラル認証を発行することができるため、ビジネス目的の認証団体が乱立。企業コンサルタントや不動産業などを営みながら、手数料目当てで認証を行う団体のほか、イスラム教の知識を持たない個人が認証団体を名乗っている場合もある。

そのため、前記のように、日本人が審査を行って認証を出し、定期的な監査を行わず、発行後に連絡が取れなくなる悪質なケースもあるという。

認証よりも情報開示を

 食事の不安から日本食を堪能できずに帰国するムスリムたち-。ムスリムに日本観光を楽しんでもらおうと、SNSで仕入れ先を公開するなど、ハラル認証に頼らずにムスリムの懸念を解消しようとする飲食店が増えている。

 ムスリム向けに日本の情報を発信する「ハラールメディアジャパン」(東京)によると、ハラル食を提供する飲食店は全国に788店あり、このうち約8割が認証を取得せず、ハラルのセミナーに出席するなど見識を深めてメニューやサービスに取り入れている。

 肉厚な神戸牛を味わえるとしてムスリムに人気のステーキ店「みその」(神戸市中央区)では、戒律で禁じられた食材や調味料を使わず、ハラル食品だけを扱う専用鉄板で肉を焼き上げるが、ハラル認証は取得していない。かわりに豚肉と酒を使っていないことを示すメニューのほか、一般客向けにアルコールも扱っているという情報を事前に正確に伝え、承諾を得てから調理を始めている。

 同店の広報担当、築地真理子さん(35)は「最初は不安だったが、認証がなくても十分にやっていけている」と自信をみせる。

 一方、年間約2万人のムスリムが訪れる日本食レストラン「祭(まつり)」(大阪市福島区)のオーナー、佐野嘉紀さん(36)は「最近になって、ハラル認証が『水戸黄門の印籠』ではないことに気がついた。正確な情報を伝えれば、自然と信頼関係は生まれる」と話す。

そんな佐野さんも当初は認証の取得を目指した一人だった。28年5月に店を開いたが、認証に必要な厨(ちゅう)房(ぼう)の改装など高い費用がネックとなった。そんなとき、あるムスリムから「ハラル認証を取得した店が必ずムスリムから選ばれるわけではない。ムスリムが店で食事している写真をSNSに投稿することが一番の認証」と諭された。

 現在、祭では具材を海鮮に限定したたこ焼きなど「粉もん」を中心に提供。認証を取得しない代わりにムスリムの従業員を雇ったり、来店状況をSNSで公開したりするなど、安心して食べてもらえるよう工夫している。

 また、佐野さんは店のノウハウを伝えるべく、月に1~2回、ハラルなどに関するセミナーを関西圏を中心に開いている。佐野さんは「ムスリムが過ごしやすい環境を広げるため、一軒でも多くハラル対応の店が増えれば」と話した。

ムスリムへの理解進むか

 イスラム教になじみが薄い日本で、ムスリムに正しい「おもてなし」をするために必要なことは何か。NPO法人「日本ハラール協会」によると、飲食店だけでは情報発信が弱く、観光客への十分な周知にはつながっていないという。

 「東京五輪が2年後に迫っているが、日本はまだまだムスリムにとっては過ごしにくい国だ」。協会のレモン史(ひと)視(み)理事長はこう指摘する。

 協会では、全国の自治体から要望を受けハラルに関する勉強会を開いているほか、礼拝室があるホテルや飲食店などを紹介するガイドマップを作成している。また、ハラルに対応している飲食店の裾野を広げるため、食材や店舗の内装など9項目を記した「ガイドライン」をホームページで公開している。

レモン理事長は「ムスリムの日本食へのニーズは高まっているが、ハラル認証が飲食店の参入を妨げている。自治体や飲食店に必要なのは、認証取得などに熱意を注ぐことではなく、ムスリムを理解しようとする姿勢だ」と話している。

 インバウンドに沸く日本経済。ムスリムの信用を失えば、その影響は計り知れない。

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